2022/05/16(月)

17時16分20秒

闇株新聞

世界の出来事を独自の見解で読み解く 刺激的金融ブログ

検索

金利と為替の動向【4】      横尾宣政

| 未分類 | 2022年5月02日 |

金利と為替の動向(4)      横尾宣政

 日銀は、長期金利の上昇を抑える為に今月20日から行ってきた「指値オペレーション」を27日と28日にも行うと発表し、「0.25%」での買い入れを7営業日連続で行った。更に日銀は、28日に大規模金融緩和策を維持すると発表した。民放の番組に出演していた岸田首相からは「円安を食い止める」スタンスは読み取れず、まるで円安を容認しているように感じられた。

 28日には米国の2022年1—3月の実質GDP速報値が前期比—1.4%(年率換算)と発表された(7四半期ぶりのマイナス成長)。

 主な要因は、輸入の拡大(貿易赤字の拡大)と在庫投資の減少で、個人消費は健在のようだ(ただし、個人消費は遅効性がある)。一部の経済評論家は、これでドル高は収まると言っているが、本当にそうだろうか。経済実態が為替を動かしているのであればドル高にストップがかかるが、実際は、強国の都合で為替が誘導された結果、経済が動かされる場合が多いのではないか(プラザ合意に翻弄された私には、その印象が強く焼き付いている)。すなわち、貿易赤字がドル高を止めるのではなく、貿易赤字解消の為に米国政府がドル高に誘導するのではないかということである(日本にとっての最悪シナリオ)。

 では、更にドル高(円安)になった時の日本はどうなるのだろうか。

 日本にとって、これ以上の円安が製造業にメリットを与えるとは思えない。その根拠の一つに研究開発費がある。科学技術・学術政策研究所のデータを見ると、この40年間、日本の研究開発費はゆるやかな増加に留まっている。

 2000年の研究開発費を1.0として、2017年の数字を見てみると(各国通貨で算定)、日本は1.2、米国は2.0、ドイツは2.0、フランスは1.6、英国は1.9、中国は19.7、韓国は5.7、になっている。この状況を見れば、日本企業が世界の欲する技術を保有し続けているとは思えない。研究開発費は、その後の売上・利益に大きく反映されるが、これを見ても、日本企業の弱体化は理解できる筈だ。その上、日本の研究開発費で大きな比率を占めているのは自動車メーカーであるが、彼等はプラザ合意以降、円高対策の為に海外に生産拠点を移しており、円安は原材料のコスト高に繋がるだけでメリットを享受するまでではないだろう。その他の製造業も同様であり、円安が日本の製造業にメリットを与えるとは考えられない。

 ひょっとしたら、日本政府は半導体等のエレクトロニクスが復活すると考えているのかもしれない。現に、TSMCなどに6000億円を支援し、半導体産業の復活を考えているようである。しかし、そんな金額で復活できる筈がない。今回、政府が考えているのは、1987年のSEMATECH構想(ペンタゴンを中心に米国の半導体産業を救済しようとした組織)に酷似している。

 金額の問題だけではない。従来日本が強かったDRAMは、既に韓国、中国などが主力になってきている。今後、日本はMPU等のロジック半導体に軸足を置き換える必要があるが、その為の技術は大丈夫なのだろうか。勿論、膨大な資金が必要になるだろうが、政府がそこまでの覚悟をしているとは思えない。

 少なくとも、5~10兆円を資本市場から導入する仕組みが必要であり、それには民間の市場資金を活用する仕組みも必要になるだろう。

 岸田首相は、テレビ番組の中で、円安に乗じて「農産物」や「食品」の輸出拡大を狙うと言っておられたが、これは更に厳しいと思われる。

 日本の農林水産物・食品輸出額は、2021年に初めて1兆円を突破した。この1兆円という数字は、2006年に日本政府が定めた目標であるが、突破するまでに15年掛かっている。私も、事業創生ファンドを運営していた2007年に、某副大臣から内熱調理の商品(ニュース・シェフ)と野菜(メビオール)を海外のフード・ショー(イベント)に出店して欲しいと頼まれたことがあった。

 その後15年経って、輸出は漸く1兆円に達したが、輸入金額はその10倍以上になっている。当然、この状態では円高の方がメリットは大きい。

 昔、「電子立国日本」というNHKの番組があった。戦後の日本企業が、いかにして欧米に追い付き、追い抜いて行ったかが分かる素晴らしい番組だった。

 技術で完全に先行され、あらゆる分野で特許を押さえられた日本の技術者が、エレクトロニクスで世界を席巻するまでを詳しく教えてくれた。血のにじむ努力が理解でき、あらゆる視聴者に感動を与えた。電子部品が「産業の米」となり、それをベースにあらゆる産業が成長した。

 しかし、日米で貿易摩擦が生じた時、国は彼等を利用してこの問題を解消しようとした。正確に言えば「半導体」と「自動車」を犠牲にして、日米貿易摩擦をクリアしたのである。

 米国と摩擦が生じると民間企業を使って回避する。その結果、民間企業が行き詰っても国は救済しない。それが日本の「政策」だった。

 そのような政策を取り続けた日本を振り返ると、日銀が「大規模金融緩和策を維持」と主張する気持ちは十分に理解できる。今の日本に「低金利」以外の知恵はないのだろう。

 日本を支えてきたエレクトロニクス、自動車、鉄鋼、精密、工作機械などの産業をどのように支えていくのか。農業、水産業などの産業をどう発展させていくのか。正しい方策を打ち立てれば、自ずから求める為替の方向は見えてくる筈である。方策のない中でただ「悪い円安」と言うことに何の意味もない。

 金融政策の前に、まずは産業に対する政策を明確に打ち出すべきである。

横尾宣政