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金利と為替の動向【3】      横尾宣政

| 未分類 | 2022年4月25日 |

金利と為替の動向(3)        横尾宣政

 為替(ドル円)が動く理由として日米金利差や貿易収支が挙げられる。今回も、NHKから民放に至るまで、あらゆる放送局が「金利の高い米国に運用資産が動いているから円安・ドル高になっている」と解説しているが、本当にそうなのだろうか。

 そうであれば、日本のどの資産が、米国のどの資産に移動しているのか。高い金利を求めるというのだから、日本の機関投資家や外国投資家が日本の債券を売って、米国の債券を買っているということだろう。しかし、現時点でそのようなことが起こるのだろうか。何故ならば、今後も米国の金利は上がると言われているのだから、米国の債券価格は下がる筈である。年間1~2%の金利差を手に入れる為に米国債を購入すれば、あっという間に債券価格で10~20%の損失を出す可能性がある。このような馬鹿げたことをやるだろうか。

 いずれ日本の金利も上がるだろうから、今のうちに円債を売却しておこうと言うのなら理解できるが、米国の債券に乗り換える必要はない。せいぜい、米国の短期債(変動金利債)等に乗り換える程度である。

 また、株式を考えると、欧米機関投資家の株式運用は企業の将来性を考えた長期投資を行っており、毎年のアナリスト・ミーティングで確認しながら継続か売却かを検討している。為替を考えて株式運用をする投資家は稀な筈だ。
 
 金利差による資金移動が原因ではなく、為替ディーラー達が金利差を理由(口実)にして売買しているだけではないのか。

 昔、為替ディーラーから聞いた話だが、彼は常に海外のディーラー数人と組んで相場を張っていた。彼等は為替の動きを日々話し合い、仮に「今日は円高」という結論を出したら、まず1番くじを引いたディーラーが、シドニー市場で数百億円の「円」を売る。その様子(マーケットの状況)を見て「やっぱり円は強い」と確信したら、1番くじのディーラーが円を買い戻し、次々と円を買っていく。それが彼等のやり方だった。

 彼等は、その時々の場味(マーケット状況)を見ながら、動かしやすい方向を見定めて一斉に動いており、金利差を求めて資金を動かしていた訳ではない。彼等は「売買の名目」、すなわち「経済指標」や「金利動向」に注目しているが、それは、あくまでも相場の理由付けに過ぎない。

 実際、ニュースで言っているような債券投資家が、本格的に資金を動き出すのは、金利に天井感が出てきた時であり、債券価格が底値を打つ直前である。米国がそのような状態になった時は、世界中の資金が一斉にドル債に向かって動くだろう。

 しかし、その時には、ドルは一足先に高値を付けている筈である。だからドル債投資は難しい。ドル債の価格が上がっても、為替(ドル)で損をする可能性が高いからだ。

 実際、私達が一番ドル債を購入したのは、30年のT—BOND(米国国債)が15%以上になった時で、ドル円は230~250円だった。T—BONDの入札で日本の証券会社が巨額を購入していた時である(入札会場には公衆電話がなく、道路を渡った公衆電話で日本の本社と連絡を取っていたが、大手証券の社員が道路で転がってしまい、その証券会社は入札を逃した。日本の証券会社が力を持っていた、携帯電話のない時代の話である)。

 米国金利が上がり出すとドル高に動きだすこともあるが、それは債券の運用資金が動いたからではない。金利上昇の傾向を見定めた為替ディーラー達が先行して動き出したからである。

 プラザ合意の時は、日米金利差(公定歩合)が3.0~2.5%の間を動く間に、ドル円相場は235円から150円に動いているが、0.5%程度の動きでそこまでの資金が動く筈がない。

 プラザ合意は、主要5か国の蔵相と中央銀行総裁がニューヨークのプラザ・ホテルに集まり、20分で取り決めた「ドル安」合意のことである。この取り決めは、米国の貿易赤字解消を目的としたもので、当初の目標は「12~15%のドル安」だったようであるが、1日で20円の「円高」が起こり、目標値は1日で達成されてしまった。その後も、主要5か国はドル安の協調介入を続け、その結果、235円(ドル円)の為替は、翌年には150円に達し、最終的には80円を割る水準にまで至った。

 このように極端な為替変動は、デフォルトを起こした国以外に経験したことがなかった。顧客に購入して貰っていた大量のドル債は大きな含み益を抱えていたが、プラザ合意で一挙に含み益を吐き出し、反対に含み損の状態になった。今でも、プラザ合意当日に何故売却しなかったのかと反省するが、このような時は放心状態になってしまうだけで、即座の対応はできない(協調介入がこれほどの威力を持っているとは思いもしなかった)。

 プラザ合意からの半年間、米国政府は数多くのコメントを発信した。それを聞く度に「すごい」と感心させられ、米国大統領の周りには、天才的な連中がいることを思い知らされた。

 しかし、ドル安が米国の輸出競争力を復活させ、米国の双子の赤字を解消するという各国の期待は敢え無く崩れ去った。米国の製造業は再生できず、貿易収支が改善されることはなかった。

 同様のことは、日本にも起こっている。今の日本において、円安が輸出競争力を強め、貿易収支に好影響を与えるということはなくなってきている。その原因は、エレクトロニクスなどの製造業の弱体化と、海外に製造拠点を移した影響である。為替が貿易収支に影響を与えるという過去の論理は働かなくなってきている。
 
 今後、為替がどのように動くかが日本にとって極めて重要であるが、今の日本にとっては、間違いなく円高が好ましい筈である。

 ウクライナ情勢による原油価格等エネルギーの高騰、穀物や海産物の食材価格の高騰、銀や半導体原材料等の高騰。それに加えて、本格的な円安が来れば、危機的な物価上昇が起こるだろう。

 昨年来、私は友人達に「130~150円」を言ってきたが、それに対して意見を共にする人はいなかった。2007年頃、原油価格(WTI)が100ドルを超えると言った時も、全員に声を出して笑われたことを覚えている。

 有り難いことに、私達の世代は「6.1国債の暴落」「オイルショック」「プラザ合意」「ブラックマンデー」「バブル経済」「証券不祥事」「大手金融機関の倒産」「リーマン・ショック」等という強烈な出来事を経験させて貰い、同時に多くのことを学ばせて貰った。その結果、常識的な考え方ができなくなってしまったのかもしれない。

 プラザ合意は何の前触れもなくやってきて、突然、強烈な協調介入を見せられた。その後の37年間、為替相場は穏やかな動きである(プラザ合意に比べて)。その中で相場を見ていると、いつもの動きと考えてしまうのが当たり前である。

 しかし、一度、あのような強烈な動きを見てしまうと、「いつもの一過性の動き」なのか「数十年に一度の動き」なのかを考えてしまう。

 今のところは、米国は金利を上げ始め日米金利差は大きくなってきているし、日本の貿易収支は2年ぶりの赤字になって、円を売る理由もある。理屈の通る「円安」であり、せいぜい130円台で止まると考えて良いのかもしれない。

 しかし、各国がドル高を志向するような事態が起こる可能性だけは考えておいた方が良いかもしれない。私には「いつもの一過性の動き」と違うような気がしてならない(取り越し苦労だろうが)。

 何回も言ってきたが、40年ぶりに、為替に対する米国の考えが変わってきたような気がする。また、ウクライナ情勢が、ドル高を促しているような気もする。

 日銀の口先介入は全く威力を発揮していないし、米国イエレン財務長官と鈴木財務大臣との会談も「すれ違い」のような印象を与えている。

 今週あたり、日銀が積極的な動きを示してくれれば良いのだが。

横尾宣政