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金利と為替の動向【2】      横尾宣政

| 未分類 | 2022年4月18日 |

金利と為替の動向(2)       横尾宣政

 米国の利上げ政策やウクライナ情勢に影響を受けた日本も、やがて金利を上げなければならない状況に陥るかもしれない。超低金利政策を続けてきた日本の利上げは、国内に大きな影響を与える可能性がある。

 今と似た状況は1970年代にも起こっている。特に1978年からの3年間で原油価格が2.7倍になった第二次オイルショックは、3.5%にまで下がっていた公定歩合(基準割引率、基準貸付利率)を9%まで上昇させた。

 その間、大蔵省は、市場価格が90円に下落している6.1%国債を、99円80銭で発行し続け、国債の大暴落を引き起こした。6.1%国債の利回りは、1980年4月に瞬間12%台まで上昇し、価格は72円前後まで下落した。

 原油価格は、まだ第二次オイルショックの時ほど上昇していないが、ドイツなど欧州各国がロシアからの天然ガス輸入を止めた場合、当時に近い水準になるかもしれない。更に、今回は、原油・天然ガスだけでなく小麦などの穀物、海産物、半導体原材料等、多くの一次産品の価格が上昇する可能性がある。それらの価格が大きく上昇すると、オイルショックどころの問題ではなくなるだろう。

 また、プラザ合意以降ドル安を志向していた米国のスタンスも重要になる。米国の40年間を16%から0%に向けての大きな利下げ局面と考えると、今回の利上げは40年間続いた金利政策の終焉なのかもしれない。

 少なくとも、ゼロ金利政策を終了して利上げ宣言した米国はドル高を容認しているように見えるが、今後これがどうなるのか。プラザ合意以降のドル安政策を継続するのであれば、金利上昇を長期間放任することはない。

 それを見極めるには、ドル安のスタートになったプラザ合意(1985年)時点の米国と現在の米国が、同じ状況にあるのかどうか確かめなければならない。

 ドルの実効為替レートは、1979年の底値を100とすると1985年に150まで上昇し、プラザ合意によって一挙に100まで低下した(現在は120)。

 1985年のプラザ合意というのは、ニューヨークのプラザ・ホテルに先進5か国(日・米・英・独・仏)の蔵相と中央銀行総裁が集まり、ドル安(10~12%)にすることを決めた会議の決定事項のことである。目的は、米国の輸出競争力を高めて米国の貿易赤字を削減するということだったが、実際は、製造業を救う為に米国政府が行った強制的なドル安だった。だから、ドル安の範囲は10~12%どころではなく、円ドルの場合は2年間で250円から122円まで一気に動いた(その後の高値は、79円75銭)。すなわち、米国政府は自動車産業、鉄鋼業、半導体産業など多くの産業が戦える状況にあると考えていたのだ。 
 
 1981年のブロック通算代表との協議では日本からの自動車輸出の削減を決め、1987年には半導体産業を守る為のSEMATECHを設立した。そして、金融面から支援しようと考えたのがプラザ合意によるドル安だった。

 しかし、これらの努力は実らず、その後米国の製造業は衰退し、輸入は拡大を続けた。自動車は、輸入が輸出の2倍になっているし、エレクトロニクス関係の輸出も輸入と拮抗している状態である。

 そのことは、為替の弾性値にもはっきりと表れている。2002年以降はドル安になっても輸出は増加せず、逆に輸入が増え続けている。ドル安にも拘わらず輸入が増加し続けたのは、米国の好況によるもので、個人所得の伸びが輸入の増加を促進したのである。

 輸出が堅調なのは航空機(ボーイング、ユナイテッド・テクノロジー)などの一部の産業だけである。

 結局、プラザ合意は輸入相手国を変えただけで(例えば、日本から中国)、製造業を再生する効果はなかった。今後も、ドル安によって製造業が輸出競争力を取り戻す可能性はないだろう。

 逆に、輸入過多の米国にとって、工業製品等を安く輸入することが重要になってくる。その為に、ドル高を求める「逆プラザ合意」が必要かもしれない。

 一方で、米国は以前から農業大国(畜産を含め)であり、トウモロコシ、大豆、牛肉など世界1位の産品が多い。これらの農産物の輸出競争国にとってドル高は輸出競争力を増す要因になる。しかし、経済制裁下のロシアは輸出できる状況ではなくなったし、ウクライナの穀倉地帯は輸出どころの状態ではない。需給が逼迫する状況が続けば、ドル高が輸出に悪影響を与えることはないだろう。

 また、サービス業の輸出は伸び続けているが、GAFA(ガーファ)と呼ばれる「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」等のITサービス企業を見てみると、無理なドル安にしなくとも、今後も利益を上げ続けるだろう(携帯電話やパソコン等の売り上げはドル高で減るかもしれないが)。

 この様な状況を見ると、長年続いた米国のドル安政策・低金利政策は、今後の米国にメリットをもたらすとは思えない。
トランプ大統領が、労働者へのリップサービスに「ドル安」を訴えたが、貿易収支に「ドル安」の効果はなかった。好調な米国経済が続き、輸入過多の状況が続くのであれば、輸入品の価格を抑える「ドル高」のほうが良い筈である。

 今後、米国が為替に関してどのような動きを示すのか、これが日本にとって一番の問題である。

 仮に、米国がドル高政策に転向した場合、日本はどのようなスタンスを取るのだろうか。

 私達は円ドルだけで為替を考える習慣があるが、実効為替レートでは、日本は極端な円安になっている。しかし、円安の恩恵を受ける筈のハイテク産業等は既に1980年代の力を失っている。これ以上の円安は、原油等の輸入品に大きな影響を与えるだけで、日本にとってメリットは少ない筈だ。

 円安防止の為に、先行して行う緩やかな金利上昇は良いのだろうが、政府は今後も低金利を続けていく考えである。今後、円安に追い詰められ、苦し紛れに金利を上げるような事態が起これば危険である。急激に債券が売られ、金融破綻に繋がる可能性もある。

 金融機関は大量に低利の国債を抱えているし、最近のマンション売買の好調さを見ても不安を感じる。勿論、生活資金を借り入れている人も多いだろう。

 これからの日本で最も危険なのは「円安⇒金利上昇⇒金融破綻」である。特に、国債依存度の高い日本にとって、金利上昇は大変な問題である。

 この問題で、唯一救われるのは、諸外国と比べて海外投資家の持ち分が少ないということだ。日本国債は国内投資家が大半を保有しており、その上、発行残高(1000兆円)は個人金融資産(2000兆円)の約半分である。最悪の場合、紙幣を大量発行して返済する手段もある。

 いずれにしても、この様な邪道な解決策を使わない為にも、今後の状況を慎重に見ていかなければならない。

 円安に関して、もう一つ私が懸念していることがある。円安によって海外からのTOBが掛かってくることだ。特に、ブランドを求めている中国企業にとっては格好のチャンスである。

 もし、彼等から高値のTOBが掛かったとき、日本人投資家はどのように対応するのか。喜んで応じるのだろうか。

 以前、M&Aの専門会社に出向していた時「日本企業を何社買収されると日本はなくなるのか」という試算をしたことがある。その時は「トヨタを始めとした40社が買収されると日本はなくなる」という結果が出た。それから数十年経ったが、その間、日本の中で数多くの合併(統合)が起こり、鉄鋼、医薬品、パルプ、金融等の企業数は減っている。恐らく、今試算すると40社どころではないだろう。

 また、海外からTOBが掛かってきた時、戦える証券会社や銀行はあるのだろうか。既に、日本古来の「株式の持ち合い(安定株主)」は通用しなくなっているし、TOBに関する法制度も、欧米に近い状態になっている。

 1980年代の米国のようなTOB合戦が起こった時、それに対抗できる知恵を持った人材はいるのだろうか。

 日本の生き残りを真剣に考える時が来たのかもしれない。

横尾宣政