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経営者の能力      横尾宣政

| 未分類 | 2022年4月01日 |

経営者の能力

 株式投資を行う時、対象会社の経営能力が分かれば有難い。以前、米国でM&Aの第一人者と言われたぺレラ氏も、企業評価をする上で最も重要視するのは経営者の能力だと言っていたことがある。技術開発力・生産能力・販売力・資金力等も重要だが、やはり一番重要なのは、それらを有効活用できる経営者の能力なのである。

 私は事業法人部時代、沢山の上場会社を担当し、多くの経営者に会ってきた。その中にも感動した会社はあるが、まさか支店でも出会えるとは思ってもいなかった。それが、未上場のベイシア・グループである(正確に言うと、ワークマンだけが公開している)。

 このグループで驚いたのは、エクイティファイナンスに頼らずに伸びていく経営力である。多くの会社は上場を目指し、コストの安い資金が手に入りだすと一気に成長する。それが常識だと思っていた私は、ベイシア・グループ(ベイシア、カインズ・ホーム、セーブオン、ワークマン等の流通グループ)の土屋嘉雄氏に会って驚かされた。

 最初に驚いたのは、土屋氏の無借金経営である。ベイシア・グループの売上げが7000億円ぐらいの時だったと思うが、土屋氏から「創業以来一度も借金をしたことがないし、手形を振り出したこともない」と聞いたことがある。ご夫婦で八百屋を始めてから借金をしたことがないし、手形を振り出したこともないと聞いた時には、流通業でそのようなことが可能なのかと驚いてしまった。

 95年頃、同じエリアにあった眼鏡チェーンが倒産しかかったことが有り、土屋氏に救済の買収をお願いしたことがあった。その時、彼が問題にしたのは、経営状態の悪さではなく、眼鏡チェーンの利益率の高さだった。当時、群馬県の道路沿いにある眼鏡チェーンの店舗は、1日で眼鏡4~5セットを販売すれば利益が出る状況だった。土屋氏はそれに対して「そのような甘い業態を抱えると、グループ全体にゆるみが出てしまう。儲かる商売だからやっても良いということではなく、儲ける為の商売の仕方が重要なのだ」と言った。

 20年ぐらい前、突然彼から電話を貰い「九州のホームセンターを視察に来ているのだが、しばらく九州には出ないことを決めたよ」と言われたことがあった。何故ですかと聞くと「九州のホームセンターの仕入れ価格は、カインズの売値より高いことが分かった。こんな甘いところで勝っても意味がない」という返事が返ってきた。儲かれば良いというのではなく、常に厳しい環境に身を置き戦い続けるのが彼の経営哲学である。

 円高真っ盛りの時「輸入商品が安く仕入れられる環境はチャンスなのですか」と聞いたことがあったが、それに対して意外な答えが返ってきた。「円高は、もっとも真価を問われる時であり、ホームセンター業界は、ここで伸びる会社と、ふるい落とされる会社に分かれる。毎日、更なる円高に向かっている時は、今日の仕入れより明日の仕入れの方が安くなる。だから、今日仕入れた商品は、今日中に販売しなければならない。そうすることで明日の売値は更に安くできる。要するに『瞬間販売力』の時代なのだ」この時も、心底驚かされ、そして完璧に納得させられた。

 彼の商売は、全てが理に適っていた。例えば、多くのホームセンターを見ると、入り口に「大安売り」という看板をおいて、魅力のない商品を並べている。しかし、土屋氏の店舗は入り口に余計な商品を置いていなかった。

 私は、昔からデータベース・マーケティングに興味をもっており、野村総合研究所の研究員に話を聞いていた。彼等によると「商品力があるもの」と「商品力がないもの」を同時に値下げしていった時、「商品力があるもの」は「ある段階(例えば20~30%引き)」を超えると爆発的に販売数が伸びていく。しかし、「商品力のないもの」は常に同じ数しか売れない。そんな魅力のない商品を安く売っても、客寄せにはならないのだ。しかし、「商品力がないもの」にもそれを求める人がいて、その人は価格に関係なく購入する傾向があるらしい。そんな商品を値下げ販売しても意味はなく、逆に少しばかり値上げしても売れる数量は同じであり、土屋氏はそのことを良く理解していたのである。

 土屋氏は店舗のレイアウトや棚割りも素晴らしかった。ある時、上場しているホームセンターの社長から「土屋さんの店舗に置いてある商品は、何故あんなに良さそうに見えるのか。同じ商品を置いているのに、私の店は安っぽく見える。できれば土屋さんに聞いて貰えないか」と言われたことがあった。私が「貴方の名前を出しても良いのですか。同業で恥ずかしくないのですか」と聞くと、「あそこに勝てる訳がないのだから、いいですよ」という答えが返ってきた。

 土屋氏に聞いてみると、このような答えが返ってきた。「私は、光を商品に当てた時の反射率を考えている。タバコを置くときも、反射率の高いマイルドセブンは通路側に置き、反射率の低いハイライトは奥の方にする。そうすると、同じ照明でも輝いて見える」更に、どうしてフローリングの模様が変わるのですかと聞いてみると「この店の通路は直線で300mになっている。その間を飽きさせないようにするには変化が必要なのだ」という答えが返ってきた。

 聞いてみると普通の答えばかりであるが、それが極めて重要なことであり「常識の積み木」を高く積み重ねていくことが経営力だと思う。一段でも非常識を積んでしまうと、いっぺんに体がつぶれてしまう。当たり前のことを考え続けることが如何に難しいかは、彼等でなければ分からないだろう。
 
 土屋氏からはカインズ・ホームの主幹事宣言書を貰っていたが、ワークマンが店頭上場しただけで、その後二十数年経った現在も、他の会社は上場していない。ワークマンが店頭上場した日に「上場しても面白味がないね」と言われたことを覚えている。そんなことを言う経営者はいない。

 彼の視線は私には見えないところを見ているのだろう。そう思った。

横尾宣政