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株価操作 【2】       横尾宣政

| 未分類 | 2022年3月26日 |

株価操作

 SMBC日興証券副社長佐藤俊弘氏を始めとして、同社の幹部らが逮捕された。株価操縦で大手証券会社の社員が逮捕されたのは、昭和47年の協同飼料事件を除いて記憶がない。協同飼料の副社長と四大証券社員が共謀し、協同飼料の増資価格を釣り上げる為に株価を買い上げた事件である。株価操作という言葉は良く耳にするが実際に見ることはない事件である。そこで、簡単に株価操作を説明することにする。

 まず、株価操作には、以下のような行為が伴っている。

① 一定の銘柄を頻繁に売り買いして、あたかも取引が活発に行われているように見せかける。当然、市場出来高に占める関与率が極めて高い(継続的に)。

② 第三者を呼び込む目的で約定させる意図のない大量の注文を発注して、一般投資家を欺く。例えば700円の株だとすると、ストップ高の1円下、すなわち99円高の799円で大量の指値買い発注して、比例配分を誘導する。

③ 魅力を見せかける為に、出鱈目な情報を拡散する(風説の流布)。

 これらは仕手筋の常套手段であるが、大量に買い続けて株価を釣り上げるだけでは株価操作にはならない(これが一般的な考え方である)。その事例として、1979年から始った「誠備グループ」による宮地鉄工の仕手戦がある。

 この仕手戦では、空売りした多くの投資家が買い戻しできない状態に陥り(誠備グループに浮動株を買い占められたから)、多くの投資家が自殺をする騒動に至った。野村證券でも毎日抽選が行われたが、当たったとしても1000株しか買い戻せない状況だった。

 見かねた大蔵省は、彼等を株価操作で逮捕しようと考えたが、売り買いを行わず、一方的に買い上げるだけの仕手グループを逮捕することは出来なかった。そこで「脱税」の名目で彼等を追い込み、仕手戦を終結させたのである。このやり方は、アルカポネを追い込んだ米国の捜査当局を真似たのだろう。いずれにしても、これだけ派手な仕手戦においても株価操作で逮捕することは出来なかった。

 ただし、普通の仕手筋はここまでの資金力がない。自殺者が出るまで空売りを踏み上げる力はない。だから、資金が枯渇した胴元(買い本尊)が売り始めると、足元を見られ、一斉に売りを浴びて暴落してしまうのである。だから、仕手筋は売り買いを頻繁に繰り返して投資家を攪乱し、時間を掛けて騙し騙し売っていくのである(苦し紛れに「風説の流布」を行って、買いが殺到した瞬間に手持ち株を売却する場合もある)。このような売買は株価操作で摘発される。仕手筋だけでなく、この他の目的でも株価操作は行われる。

 上場企業の自社株操作である。幹事関係を引き合いに出され、高株価を要求された証券会社はその餌食になる。どの企業も安いコストの資金が欲しいから、高い株価でファイナンスをやりたいのだ。

 私も担当していた上場企業から「今日は野村が5000万株買ってくるからその前に買っておけと、他証券の連中に言っておいた」と電話で脅されたこともある。最後まで逃げ回って買わなかったが、この攻防戦は半年間続いた。プレッシャーに負けて株を買い上げていたら完全な株価操作である。協同飼料のケースはこのパターンだ。

 逆に、ファイナンスにおいて、上場会社が弄ばれるケースもある。大蔵省にファイナンスを申請すると「ファイナンス期間」に入ったことになり、幹事証券は発行会社の株を買えなくなる。そこで、海外ワラントを発行する会社の株を大量に空売りしてくる連中が出てくるのである。

 幹事証券が買えないのだから株価は大きく下がる。当然、行使価格(転換社債なら転換価格)も安く決まる。そうしておいて、グレー・マーケットでワラントを買い集めるのである。当然、空売りだから買い戻しが必要になるが、その代わりに買い集めたワラントを行使して株券を渡すのである。これも、利益を狙った株価操作だが、ただ空売りしているだけなのでどうしようもない。

 私は、困っている社長にアドバイスしたことがある。空売りをしている証券会社に「発行を中止しろと主幹事に言われた」と耳打ちさせたのである。ワラントが手に入らなくなると怯えた証券会社は一斉に買い戻し、株価は戻った。

 ところで、日興証券の場合は、少し事情が違っている。一部の報道では、株価操作を行った株の中に、小糸製作所とモスフードサービスがあるということだが、その他にも8社の株価操作を行ったようである。いまどき自社株操作を強要する会社はないだろうし、マスコミは「ブロックオファー」の為に行ったと報道している。

 売却してくる顧客からすると、大量に買い取って貰うのだから、高値での売却を要求する訳はない。私達の頃は、顧客の要求を受けるのは全て営業体であって、株式部に株価操作を依頼することはなかった。万が一、株価操作的な売買が必要になった時は、親しい顧客に頼んでいた。いずれにしても、自己資金をこの様な株価操作に使うリスク感覚に驚かされた。

 ここまで考えてくると、ブロックオファーで利ザヤを稼ぐ為に、エクイティ部門が株価操作を行ったとしか考えられない。

 証券会社は「買い上がりクロス」と「売り叩きクロス」を禁止されているが、これも「買い上がりクロス」の一種であり、明らかな株価操作となる。ましてや、仲介役の証券会社自身が儲ける為にやったとしたら言語道断だ。

 最後に、敢えて言わせて貰うが、この事件は単なる株価操作ではなく、それ以上に重大な問題を抱えている。逮捕された佐藤副社長は、長年三井住友銀行で銀行マンをやっていた人で、資金運用部を経て日興証券に移ったらしい。この経歴では、株価操作などの専門知識を身に付けていた筈がなく、ブロックオファーを報告されても理解できなかったのではないか(証券外務員試験ぐらいは受けていたのだろうか)。

 そんな人間を突然エクイティ部門の責任者にする日興証券は常軌を逸している。そんな証券会社だから株価操作が日常的に行われたのだ。

 株価操作の前に、日興証券の経営体質を責めるべきであり、そこを糾弾しなければ同様の事件は再度起こるだろう。

 
横尾宣政