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20年のボックス相場を脱却したNYダウ    横尾宣政

| 未分類 | 2022年1月10日 |

20年のボックス相場を脱却したNYダウ   横尾宣政

 現在日経平均は30年以上のボックス相場(7,000~40,000円)に入っており、いまだに高値を更新できない状態だが、実は、NYダウも、1960年から1980年の20年間、500~1000ドルのボックス相場に入っていた。

 その間に株主の不満は増大し、その不満は経営責任を求める厳しいスタンスとなって現れてきた。上場企業は既存株主の権利の希薄化を防ぐ為に、エクイティファイナンスを控えるようになり、R&D(研究開発)や設備投資を縮小して、目先の利益追求や、高配当に走る傾向が出てきたが、中には時価の8割の配当を行って倒産したケースもでてきた。

 ボックス相場の高値で増資を引き受けた証券会社は、引き受けた株式の販売チャンスを失ってしまう。そのような危険を回避する為に伝統的引受業務から撤退し、それまで否定し続けてきた敵対的TOBのアドバイザリー業務に参加する会社が出始めた。モルガン・スタンレーがその代表例である。一方、71年にスタートしたナスダックは順調な滑り出しを見せていた。

 90年当時、ナスダックに興味を持った私は、ナスダックに直接電話させ、上場企業の債券格付けを調べたことがあった。その平均格付けで発行した場合の社債発行レートと、20年間のナスダックの上昇率を比較してみると、かなり近い数字になっていることが確認できた。この観点で考えると、ナスダックは理にかなった動きをしていたのである。

 しかし、ボックス相場の真っただ中にいた70年代のNYダウは低迷を続けており、割安な企業が数多く存在していた。
そこで、経営者の中には自社株を買い取って未上場化(Going Private)を目指す者も出始め、割安な企業を狙った買収合戦も始まった。

 81年のデュポンによるコノコン買収、USスチールによるマラソン・オイル買収、エルフによるテキサスガルフ買収などのメガ・ディール(大型企業買収)がその走りであり、その流れは90年に向かって次第に大きくなっていく。メガ・ディ―ルは急激な株価上昇を生み出し、やがてボックス圏を大きく抜け出す動きになっていく。

 たとえば、1988年10月20日にRJRナビスコ社の経営陣とシェアソンによって公表されたRJRナビスコ社の買収提案は、1株75ドルという50ドル前後で推移していた株価の1.5倍で始まり、その後、KKR社(コールバーグ・クラビス・ロバーツ社)とのTOB合戦の結果、最終的に11月30日にKKR社が109ドルで勝利した。50ドルだった株価が、1カ月半で2倍以上に跳ね上がったのである。

 TOBの価格と、それ以前の価格(一般的には4週間前の時価)の差額を買収プレミアムと言うが、50%が当たり前であったプレミアムは、RJRナビスコのようにTOB合戦が始まると一気に跳ね上がった。このような大型の企業買収が次々と起こり(1988年が182件、1989年が123件)、次なるTOBのターゲットを模索する一般投資家の動きが、NYダウを一気に上昇させる原動力になった。

 更に、米国金利の低下(81年に14%に達した公定歩合は、86年には5%台まで低下した)や、ドル安(プラザ合意)による海外からの買収資金の流入等、好条件も重なった。

 この時期のTOBで重要なポイントは、ハイ・プレミアムを付けて買収しても、十分に利益が出せる状態だったということである。RJRナビスコにしても、KKRは翌年から分割売却(ダイベスチャー)を始め、約1兆円の利益を上げたと言われている。決して、ブームに浮かれた無節操な買収ではなかったということだ。

 大手証券会社のM&A部門や、新興のM&A業者は、上場会社の売却価値を算定して顧客に買収提案を持ち掛けていた。私が出向したワッサースタイン&ぺレラ社もその代表例である。大手金融機関で実績を上げた二人(ワッサースタイン氏とぺレラ氏)がスピンアウトして作った会社だが、設立直後から全米3位に入る買収実績を上げ続けた。

 彼等は、ターゲット企業を事業部ごとに分割して検証し、事業部一つ一つについて、①事業をゼロから構築した場合の価値、②社員全員を解雇して技術(特許)・設備・不動産・航空機等をそのまま売却した場合の価値、③再上場させたときの価値、などの様々なケースで企業価値を算出し、最も高く売却できる方法を模索していた。それを顧客に提案し、アドバイザー契約を獲得していたのである。

 勿論、M&A業者に案件を持ち込む顧客もいた。ワッサースタイン&ぺレラ社に出向していた私にアメリカ人が訪ねてきたことがあったが、彼は顔を合わせた瞬間「住友化学を買収したい。貴方は野村證券の人間だからできる筈だ」と切り出した。私が「1兆円以上になりますよ」と言うと、「ゼロから生産設備や販路を作っていくとそれ以上かかるし、立ち上がらない可能性もある。それに、顧客を持った会社が1兆円で買えるなら安いもんだ」と答えた。この時は、野村證券は敵対的買収に協力できないし、日本人のカルチャーはTOBを受け入れる状態にないことを説明して、帰ってもらった。

 とにかく、全てをドライに合理的に考えるのがアメリカ人であるが、そのアメリカ人がM&Aの考え方を身に着けると、大きな株価暴落が起きても立ち直りは早くなる。この40年間、ブラックマンデーやリーマンショックのように、様々な株価暴落を経験してきた米国株式市場であるが、致命傷になることはなく、いち早く回復して新値を更新し続けている。その要因には、背景にM&Aの考え方があるからではないか。

 日本のように、業績変化率に頼った株価構築ではなく、米国株式市場の場合は、様々な投資家が様々な観点から企業価値を計り、場合によってTOBを掛けてくる。これは、大きな下支え効果と言えるのではないか。

 次回からは、日本の株式市場の問題点を検証しながら、今後の対策を考えていきたい。

横尾宣政