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「香港国家安全維持法」の強引な施行は、中国の弱体化を加速させる

| 政治・政策提言 | 中国 | 歴史・宗教編 | 経済編 | 2020年7月03日 |

 中国の全人代常務委員会(委員長はNo.3の栗戦書)が6月30日、香港国家安全維持法(以下、国家安全法)を満場一致で成立させ、同日午後11時から施行となった。もともと5月28日の全人代で制定方針が採択されており、同常務委員会が1か月で具体的な法律として制定し、香港返還記念日である7月1日の1時間前に施行させたものである。

 香港返還前である1990年の全人代で採択された香港基本法は国家分裂やテロ行為などを禁じる立法措置を香港政庁(当時)に義務付けており、返還後の香港政府も2003年にその立法化を目指したが50万人規模の反対デモで成立を断念した経緯がある。そこで中国政府は香港基本法の例外規定を適用して香港立法会の手続きを経ずに今回の強引な制定・施行となった。ちなみにマカオ政府は2009年に同様の国家安全法を成立させている。

 具体的には中国政府は治安維持機関として香港に「国家安全維持公署」を設置し、香港政府が行政長官(現任は林鄭月娥)をトップに設置する「国家安全維持委員会」を監督・指導する。今回成立した国家安全法は、香港の他の法律との間で矛盾が生じた場合は国家安全法が優先され、関係する裁判には香港の行政長官(つまり中国政府が)が指名する外国籍でない裁判官が起用されるなど、完全に中国政府の意向が反映される仕組みとなる。

 7月1日には早速(中国政府の意向を受けた)香港政府がデモ隊を中心に370名を逮捕し、うち少なくとも10名に国家安全法を初適用している。また2016年に結成された香港の代表的民主化団体である「香港衆志(デモシスト)」は6月30日に解散し、代表メンバーの周庭(アグネス・チョウ)らは地下に潜った。

 また今回成立した国家安全法は、外国政府や外国企業、外国人も処罰の対象となる。例えば米国下院が1日に成立させた対中制裁法案などもその対象となる。さすがに中国政府は米国政府を直接処罰できないが、その対中制裁法案の実行に携わった香港住民や、中国を訪れた米国人など外国人が突然に逮捕される恐れは十分にある。中国政府はその処罰の対象を一方的かつ無制限に拡大できることになり、国家安全法の最高罰則は無期懲役である。

 それらを含めて香港の高度な自治が認められた「一国二制度」が完全に崩壊する。同制度は1997年の返還後50年は維持されることになっていたが、返還後23年にして完全に反故になる。もともと「一国二制度」とは1982年に英国のサッチャー首相(当時)を恫喝して「香港回収」を強行した鄧小平が持ち出した条件で、先端の金融システムやインフラが確立している香港を「そのまま中国が利用できるメリット」を50年間確保したものである。鄧小平は同制度を50年経過後も継続させる考えだったようである。

 つまり鄧小平の「一国二制度」は中国側のメリットであり、1997年の香港返還時のトップだった江沢民、2003年に香港の反対デモで国家安全法成立を「あっさり」断念した胡錦涛も同じように考えていたはずである。

 ところが習近平だけが国家安全法を強引に成立させ、同時に「一国二制度」も崩壊させたことになる。それでは習近平の思考回路はどうなっているのか? 3つほど考えられる。

 1つ目は習近平がそのデメリットを認識していないケース。2つ目は認識しているものの制御可能と考えているケース。そして3つ目はそうすれば自身の国内政治基盤を拡大できると考えたケースである。いずれも習近平の傲慢さと自信過剰と経済センスのなさを反映しており、すべて正解であると考える。

 それでは習近平の思考回路はともかくとして、実際の国家安全法施行に伴う香港すなわち中国のデメリットとは何か?

 「一国二制度」があるため、香港は中国と世界を結ぶ貿易の拠点であり金融センターとしての役割を果たしてきた。香港には外資制限がないため1400社の日本企業、1300社の米国企業など多数の外国企業が拠点を置く。また対中国直接投資の7割は香港を経由しており(2018年は総額10.8兆円)、欧米の投資家は香港と中国を結ぶ相互取引(ストックコネクト)を通じて中国本土株式に投資してきた(2019年は5.3兆円の買い越し)。

 中国の名目GDPは香港が返還された1997年の8.0兆元から2019年の95.5兆元まで12倍になり、外貨準備は1997年末の1464億ドルから2019年末の3兆1079億ドルまで21倍になった。中国経済とは貿易黒字と資本流入で積みあがる「外貨準備」を政府が一元管理し、中央銀行である中国人民銀行がその「外貨準備」を対価に信用創造を行い、中国内に潤沢な人民元を供給して未曽有の発展を遂げてきた。少なくとも香港の存在が貿易黒字と資本流入を通じて中国経済に多大な貢献をしてきたはずである。
 
 もっとも中国外貨準備は、習近平が2012年11月にトップに就任してから間もない2014年6月に3兆9932億ドルのピークをつけている。またコロナウイルスの影響はあるものの2020年1~3月期は中国の経常収支が297億ドルの赤字、資本収支が307億ドルの流出となっている。

 つまり習近平がトップに就任し、本来はNo.2の李克強首相の管轄である経済・金融政策まで主導するようになってから、順調に成長してきた中国経済・金融市場が明らかに変調していることになる。習近平はその自らの失政による経済の変調を、綱紀粛正や一帯一路などで目立たなくしてきただけである。

 そして今回の国家安全法の施行は、その香港の役割を低下させるというより、3期目以降もトップに居座るつもりである習近平の「数ある経済・金融の失政の1つ」と考えるべきである。

 1949年に成立した中華人民共和国を中国史に数ある帝国の1つと考えると、習近平は毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦涛に続く5代目皇帝となる。皇帝の座が直系の子孫に継承されていった過去の帝国とは違うが、中国史におけるだいたいすべての帝国は4~5代目あたりから愚帝や暴君が現れ弱体化し、やがて滅んでいった歴史の繰り返しである。

 香港国家安全維持法の強引な施行とは、中華人民共和国という「帝国」の弱体化を加速させる1つの「きっかけ」となるはずである。

2020年7月3日

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